仙台高等裁判所秋田支部 昭和24年(を)87号 判決 1950年1月11日
被告人
石田豊
主文
本件控訴はこれを棄却する。
控訴による訴訟費用は被告人の負担とする。
理由
弁護人秋山薫一の控訴趣意第一点は。
本件公訴は棄却せらるべきものと思料する。原判決の認定した被告に対する犯罪事実について起訴状存在せず、ただ昭和二十四年三月七日附能代簡易裁判所書記の起訴状謄本により作成した文書と昭和二十四年三月十日附能代区検察庁検察事務官から能代簡易裁判所宛刑事事件簿により昭和二十四年一月二十一日同裁判所へ起訴したことは明らかであるから証明する旨の文書とあるのみで直接公訴提起の文書がない。右は同年一月二十一日起訴したけれども同年二月二十日能代市大火の際能代簡易裁判所の類焼により記録焼失したのは顕著な事実であるから、右の起訴状も焼失存在せざるに至りたるものと思料せらるるをもつて起訴状の原本存在せざる以上はたとえ前掲裁判所書記の作成した文書と検察事務官の作成した証明書あればとて刑事訴訟法の合法的起訴状でないから同法第三百三十八條第四号にいわゆる公訴提起の手続が、その規定に違反したため無効である場合に該当するにもかかわらず被告人に対し有罪の判決を言渡した原判決は違法の判決なるが故にこれを取消し本件公訴は棄却せらるべきものであるというにある。
按ずるに記録によれば本件には裁判所書記船木進が「右は被告人等に送達したる起訴状謄本によりこれを作成したるものである」と、書した起訴状の写書があるだけで起訴状の原本がないことは所謂指摘の通りであるが、右起訴状の謄本は公訴の提起と同時に検察官が原審裁判所に差し出したそのものを裁判所が刑事訴訟法第二百七十一條第一項、刑事訴訟規則第百七十六條第一項の規定により被告人に送達したものに外ならぬこと右写書及び当審受命刑事の証人船木進に対する尋問調書記載により明認され、また右各証拠及び検察事務官の昭和二十四年三月十日附起訴証明についてと題する文書とを照らし合わせると昭和二十四年一月二十一日本件が原審裁判所に合法に起訴されたこと一点容疑の点がないので本件は同日以降原審裁判所に繋属したこと疑なく、また本件公訴事実は右起訴状写書に摘録した公訴事実記載と同一であること明らかだからこの事実について原審が審判せねばならぬこというまでもない。果してしからば本件公訴提起の手続が違法と主張する論旨は適切といいえないので採用し難い。